強誘電体結晶の育成

研究室では、主に水溶性の結晶について研究していて、恒温水槽を用いて水溶液徐冷法で結晶を育成しています。

研究室では、これまでに

  • 硫酸三グリシン(硫酸グリシン、TGS, triglycine sulfate)
  • 亜リン酸グリシン(GPI, glycine phosphite)
  • ロッシェル塩(酒石酸ナトリウムカリウム四水和物、Rochelle salt, sodium potassium tartrate, NaKC4H4O6·4H2O)
  • リン酸二水素カリウム(KDP, potassium dihydrogen phosphate)
  • 硫酸アンモニウム(硫安、ammonium sulfate)
  • 硫酸リチウム一水和物(lithium sulfate monohydrate)

などの単結晶を育成してきました。材料物質によっては溶解度の温度依存性があまり大きくないものもあるので、蒸発法を用いる時もあります。今後、そのほかの物質で融液からのるつぼ冷却法や引上げ法にも挑戦していきます。

下の写真はロッシェル塩の単結晶で、成長を始めてから3日程度でしょうか。大きさは1辺が1~2センチでc軸方向が長くなっています。中心に種結晶を吊っていた糸の輪が見えます。(写真の結晶は、同じ結晶面でも場所により成長の様子が異なっているので、結晶成長としては失敗作です。)

Rochelle salt crystal in growing
Rochelle salt crystal in growing

結晶が作る形(晶癖(しょうへき))には、結晶を構成する原子や分子の配列の規則性が表れていて、面同士の角度は材料により決まっています。いつも同じ形(相似形)の結晶が得られそうですが、成長の条件や不純物の存在で面ごとに成長速度(結晶の中心から面までの距離)が変わってくるため、形は似ていますが、太かったり細かったりある面がなかったりある面が極端に広かったりするなど、様々な格好になります。

Harvested ADP crystals
Harvested ADP crystals

結晶が出来上がると、物質の性質を調べるために結晶を整形して試料を作ります。誘電測定では板状の、X線結晶構造解析のためには微粉末や球形の試料を作製します。結晶は硬くて脆いため、試料の切り出しにはワイヤーソーなどを用います。劈開(へきかい)のできる結晶では劈開をできるだけ後の手順に回して劈開面を保存するようにします。

X線結晶構造解析では、回折されたX線の方向と強度を観測することで原子や分子がどのように配置されているのかを計算して求めます。以下に硫酸グリシンの結晶構造を示します。原子は酸素(青)、窒素(緑)、炭素(赤)、水素(水色)で、ラグビーボールのような形で表現されています。薄く書かれている構造は、分極が反転した時の構造です。

Crystal structure of TGS
Asymmetric unit of crystal structure of TGS

 

 

下の写真は、硫酸グリシンに不純物として銅をドープ(混入)したときの様子です。ドープ量が多くなると結晶に色がつき、晶癖が変わっていくのが分かります。右の図はドープした結晶の誘電率の温度依存性です。ドープすると頂点が二つに分かれ、ドープ量とともにその間隔が広がっていくのが分かります。

TGSCu-A2s

 

強誘電体は、溶液、融液、気相、固相から結晶を育成でき、その育成法は以下のように分類できます。

  • 融液
    • るつぼ冷却法(単純固化法)
      るつぼに原料材料を入れ、融点よりも高い温度に熱して材料を融解させた後に、冷却して結晶を得る方法。
    • 引上げ法(チョクラルスキー法、キロプロス法)
      融液の上方から種子結晶を降下させ、融液と種子結晶がなじんだ後に、徐々に種子結晶を回転させながら引き上げて結晶を得る方法。
    • フラックス法
      目的の原料のほかにフラックスと呼ばれる原料を混ぜて融液を得たのち、適当な温度まで冷却して結晶を得る方法。フラックスを混ぜることにより融点を下げることができる。
    • ブリッジマン法
      縦型の炉の上部を融点以上に、下部を融点以下に保っておき、容器に入れた原料を上部から徐々に降下させると、容器の下端から融点以下になって結晶が成長していく。
    • フローティング・ゾーン法
      多結晶(小さな結晶がたくさん集まってできている)棒を炉内に保持し、一定の部分のみを融点以上に熱し、熱せられる部分を移動させて、単結晶を得るもの。
    • ベルヌーイ法
      微細粉末原料を酸水素炎を用いて溶融させ、液滴をブールと呼ばれる単結晶へと滴下して結晶成長を行うもの。
  • 溶液
    • 水溶液徐冷法
      育成母液と呼ばれる飽和水溶液中に種子結晶浸漬または懸垂した状態で母液の温度を徐冷して過飽和水溶液とし、過飽和分を種子結晶上に析出させて結晶成長を行うもの。
    • 溶媒蒸発法
      育成母液と呼ばれる飽和水溶液中に種子結晶浸漬または懸垂した状態で母液の溶媒を徐々に蒸発させて過飽和水溶液とし、過飽和分を種子結晶上に析出させて結晶成長を行うもの。
    • 還流法(循環法)
      二つの恒温水槽を用意し、互いの溶液がポンプで行き来できるようにしておく。片方の水槽に原料材料と水を入れて原料が溶けきることがないようにしておき、もう片方の水槽に種子結晶を設置して少しだけ温度を低めにしておく。原料が溶液中に溶け出し、種子結晶のある水槽へ輸送されて種子結晶上に析出させて結晶成長を行うもの。種子結晶上に析出したために薄くなった溶液は原料のある水槽へ輸送される。
    • 水熱合成法
  • 気相
    • 蒸気冷却法(昇華法)
      昇華しやすい材料では、昇華によって生じた蒸気を冷却することにより結晶を得られる。
    • 気相中輸送法
      還流法を気相中で行うもの。
  • 固相
    • 多結晶体焼結法(セラミックス)
      • シンタリング
      • ホットプレス

このほか、真空蒸着により薄膜結晶を作る方法などがあります。

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