強誘電体とは

材料を電気の流れやすさから分類すると、鉄やアルミニウムなど金属のように電気を良く通す「導体導電体電気伝導体」と、石やガラス、ビニールのように電気を通しにくい「絶縁体」に分けることができます。絶縁体には電気を通さない代わりに電気を溜める性質があります。この電気を溜めるという性質に注目するとき、材料を「誘電体(ゆうでんたい)」と呼びます。「半導体」は導体と絶縁体の中間とよくいわれますが、絶縁体に不純物を入れて、活性化したときだけ電気が流れるものと考えることができます。半導体は、熱や電気を加えないとき絶縁体と同じようにふるまうので、電気が流れ始めるまでは誘電体でもあります。

誘電体に電圧を加えても電気が流れないので、誘電体はプラスの電気を帯びた部分とマイナスの電気を帯びた部分に分かれます。このことを「分極(ぶんきょく)する」といいます。そして、加える電圧をゼロにすると分極しなくなる誘電体を「常誘電体(じょうゆうでんたい)」と呼びます。これに対し、電圧をゼロにしても分極したままの状態を保つ材料を「強誘電体(きょうゆうでんたい)」と呼んでいます。電気にはプラスとマイナスの極性がありますから、強誘電体の分極の向きは加える電圧の極性によって変えることができます。強誘電体の持つ分極の極性を加える電圧の極性で反転できる性質を強誘電性と言います。強誘電体以外でも、電圧をゼロにした状態で分極している材料には「焦電体(しょうでんたい)」がありますが、分極の向きを変えることはできません。

強誘電体の分極は、材料結晶の格子歪み(ひずみ)による電気的なバランスの崩れから生じるので、電圧を加えると材料結晶が変形したり、逆に材料結晶に応力(おうりょく、ある方向だけに加える圧力のこと)を加えて変形させると、分極が生じます。この性質を持つ材料を「圧電体(あつでんたい)」と呼びます。また、強誘電体は電気や応力だけではなく、熱や光、材料を構成する原子の種類によっては磁気に対しても電気的な応答を示します。

このように強誘電体材料は多彩な性質を併せ持つため、各種(電気、磁気、力、熱、光)センサーやアクチュエーター(物を動かす装置)へ応用が可能です。しかし、強誘電体材料を用いたデバイスはあまり普及しておらず、材料の特性を生かし切っていないために性能でも他の材料で作製された素子の方が優れていることが多いように思われます。強誘電体の性質とその応用例を以下に示します。

  • 高い誘電率 ⇒ コンデンサ、揮発性メモリー
  • 圧電性 ⇒ 衝撃センサー、アクチュエータ、振動子、表面弾性波フィルター、MEMS素子、環境発電素子、
  • 焦電性 ⇒ 熱センサー
  • 強誘電性 ⇒ 不揮発性メモリー
  • 強誘電相転移 ⇒ PTCサーミスタ
  • 非線形誘電率 ⇒ 光変調器、光高調波発生器
  • 強誘電ドメイン ⇒ 擬似位相整合素子、超高密度記録

最初に発見された強誘電体はロッシェル塩(酒石酸ナトリウムカリウム四水和物)で、1920 年に「電場 E に対する電束密度 D の変化率 \partial D/\partial E が電場を増加するときに最大値があるのに電場を減少させるときには一様に下がる」ということが報告されています[1]。その後、1935年にリン酸二水素カリウム(KDP)、1943年にチタン酸バリウムが発見され、1950年頃からは相次いで発見されています。どのような強誘電体がこれまでに発見されてきたかは、「様々な強誘電体(リンク先未完)」を御覧ください。

参考文献

[1]  J. Valasek, Piezoelectric and Allied Phenomena in Rochelle Salt, Phys. Rev. V15, 537 (1920).

 

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