強誘電体が持つ性質のことで、材料に電圧を加えていない状態で表面に電荷が生じて(分極して)いて、その分極の極性を材料に加える電圧の極性で反転できる性質をいいます。電圧を加えていない状態での分極を自発分極または残留分極、分極の極性を反転することを分極反転といいます。焦電体には自発分極がありますが、その自発分極を反転できないので、強誘電性があるとは言えません。強誘電性がある材料はすべて、焦電性と圧電性を兼ね備えています。
釘や金属製のクリップなどを磁石で同じ方向へ何度かこすると、釘やクリップが磁石の性質を持ち、片方がN極、反対側がS極になります。この性質を強磁性といいますが、これに似た電気的な概念が強誘電性です。磁性は材料を構成する原子の電子(スピン、軌道)による磁気双極子を起源としていますが、誘電性は電気双極子が起源です。双極子は異なる極性のもの(N極とS極、+極と-極)が対になったものなので向きがあります。熱擾乱(ねつじょうらん、熱振動によりかき乱されること)があると双極子はそれぞれ異なる方向を向くために材料全体として磁石になったり自発分極が現れることはありませんが、温度が低くなり熱擾乱が抑えられた状態では双極子同士の相互作用(おたがいに影響を与えあうこと)の強さによっては、材料に磁石を近づけたり電気を加えなくてもこの双極子の向きが揃うようになります。磁気双極子なら磁石(強磁性体)になり、電気双極子なら自発分極が現れます。高温では自発分極を持たない材料の温度を下げていくと自発分極が現れることを「材料が相転移して自発分極が生じた」と表現します。もし、生じた自発分極の極性を反転できるとき、この相転移を強誘電相転移といい、自発分極を持たない温度範囲(相)のことを常誘電相、自発分極が生じている温度範囲(相)を強誘電相といい、材料の状態を区別します。
磁気双極子は一般に材料の中であらゆる方向を向くことができますが、電気双極子はその起源により異なりますが、大きな影響を与える電気双極子は一般に材料の中で特定の方向しか向くことができません。
強誘電体の表面は電圧を加えていない状態で正か負の電気を帯びていますので、記憶保持のために電源を必要としないメモリー(不揮発性メモリー)として、強誘電性は応用されています。
研究ページの「強誘電体とは」もお読みください。
結晶は構成する原子の並び方から32種の結晶点群に分けられますが、そのうち、極性を持つ結晶点群(10種)、
に属する結晶のみが焦電性を示します。これらのうち、電圧を印加して自発分極を反転できるもののみが強誘電体です。