強誘電体の物性研究

強誘電体は焦電性圧電性などの多彩な性質を見せますが、その性質は、強誘電体の種類はもちろん、同じ材料であっても不純物の量や温度、圧力、電場などにより大きく変わります。どのようにしてこれらの性質が発現しているのか、温度などの測定条件を変えるとどのように特性が変わるのかを調べています。

材料の性質を調べるには、材料に電気(電場、電圧)を加える、材料を磁場の中に置く、材料に応力を加える、熱を与える、光をあてるなどの「強弱のあるもの」を与えて、その結果、電流(電荷)が流れる、磁石になる(磁化する)、歪む、温度が上がる、光るなどの材料の「多い少ないがある」反応を測定します。例えば、電圧を加えたときに材料に流れる電流を測定してオームの法則を思い出せば材料の電気抵抗を調べたことになります。そして、材料の温度を上げた時に電気抵抗の値が小さくなれば半導体的な性質を、大きくなれば金属的な性質を持っていることが分かり、電気がどのように伝導しているのかを考えることができます。

強誘電体は絶縁体なので電気が流れることをあまり考えませんが、電気を溜める性質(誘電性)を測定します。誘電性は、例えば、材料で平行平板コンデンサを作って、そのコンデンサの静電容量 C を測定して誘電率を算出します。面積が S で厚さが d であれば、誘電率 \epsilon は、

    \[ \epsilon = \epsilon _r \epsilon _0 = \frac{Cd}{S} \qquad \because d < < S \]

で求めることができます。\epsilon_r は比誘電率、\epsilon_0真空の誘電率。書籍によっては比誘電率を誘電率と記すことがあるので注意が必要です。

厚かったり面積が小さい時には電極の縁(ふち、へり)での電場が一様でなくなる(エッジ効果)ために、容量に補正が必要となり、簡単には経験式による補正を行います。有限要素法などにより容量を計算することもあります。

強誘電性の特徴は、材料に自発分極があることとそれを分極反転できることです。このことを確認するには、実際に材料へ電場を印加して分極が反転できるかどうか、電場を印加しない状態で分極が生じているのかどうかを観測してみる必要があります。自発分極があるかどうかは、材料の結晶点群から予測することができますが、分極が反転できるかどうかは、実際に交流電場を印加して、反転するのを確かめるほかはありません。

ところが、電場が弱いと反転しないかもしれませんし、交流電場の周波数を遅くしたり直流電場を長時間印加することで、やっと反転するのかもしれません。印加する電場を強くするか、試験材料を薄くして相対的に電場を強くすればいいだけなのかもしれませんが、たいていの焦電結晶(強誘電体になってもおかしくない結晶点群を持つ材料)は強い電場で絶縁破壊を起こしてしまい、試料がダメになってしまいます。なので、強誘電体の定義は結構曖昧なのです。

分極は材料の表面に現れる(束縛)電荷のことですので、その量や符号が変わるときには、材料の内部や外部を通って電流が流れなければなりません。材料は絶縁体(誘電体)なので内部には流れないとすると、外部を通って流れる電流を測定することで材料に分極があるのかどうかが分かります。なので、分極を測定する回路は簡単で、電源と試料コンデンサ(材料の平行平板コンデンサ)と電流計をつなぐだけです。

この回路で、電源電圧を徐々に大きくしていくと、電流が少しずつ流れて試料コンデンサに電荷が溜まっていきます。電圧を一定の割合で上昇させるなら、電流の値は一定になります。電源電圧を上昇を止めて一定電圧にすると、試料コンデンサの電圧と電源電圧が等しいので電流は流れなくなります。このときでも電流が流れていればそれは、試料コンデンサが理想的なコンデンサではなく少し電気伝導度を持っているということです。流れた電流を時間で積分すると試料コンデンサに溜まっている電荷の量に等しくなります。

試料コンデンサが強誘電体であれば、電圧を上昇していく途中で電流の値が一度増えた後に減少して元の値程度に戻ります。これは分極が反転することにより流れるもので、分極反転電流と呼ばれます。分極反転電流が流れ始める電圧に相当する電場を抗電場と呼びます。分極反転電流を時間で積分すると、試料コンデンサの分極反転に伴う分極の増加量が分かります。分極反転電流が流れている途中で電場の印加を止めると、分極の反転は中途半端なままで止まります。再び電場を印加すると分極反転の続きがおこなわれ、残りの分極反転電流が流れます。

強誘電体のコンデンサでは、初期状態で分極がどのようになっているのかが分かりませんので、分極の測定前に、まずは、例えば逆方向の強めの電場を一定期間印加して、分極の方向を負の方向に揃えます。この作業をポーリングと言います。その後、正の電場を印加して、流れる電流を測定し時間で積分すると、反転可能な分極の2倍の値が得られます。分極が -P_{\rm s} の状態から P_{\rm s} の状態になるのですから、分極反転で変化する分極量は 2P_{\rm s} です。

積分が困難な時は、ソーヤ・タワー回路と呼ばれる回路で分極を測定します。電流を積分するので、なんやら複雑な回路なのではと思うかもしれませんが、静電容量の分かっているコンデンサを先ほどの電流計の代わりにつなぐだけです。このコンデンサを基準コンデンサと呼ぶことにします。基準コンデンサの静電容量は試料コンデンサよりも十分に大きな容量であるとします。電気回路なので、10倍も大きければ大きいと思ってもいいかな。先ほどの例では電圧を上げていくと電流計に電流が流れましたが、この回路でも電流は流れるものの、電流計の代わりに入れてあるコンデンサに電荷が溜まり、基準コンデンサの両端の電圧が高くなっていきます。基準コンデンサの両端の電圧は電流ではなく、流れてきた電荷の量に比例するので、基準コンデンサの両端の電圧は試料コンデンサに溜まってる電荷の量を表していることになります。

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